HOME > コラム > 世迷言
世迷言

◆日付
◆キーワード


☆★☆★2014年11月23日付

 目が覚めて「ああ、夢だったか」とほっとすることは誰しもが経験していることだろう。特に重大な犯罪や過失を犯したり、大恥をかいたりした夢の後はなおさらである。しかし大震災後は現実と認識していても白昼夢を見ているような錯覚に囚われることがしばしば▼3年8カ月も過ぎてなお現実と夢との境界があいまいになったままなのは、いくら自然のエネルギーというものがすさまじいとしても、こんなに巨大な破壊が実際に起こったという目前の事例をにわかに信じるほどの許容能力を現代人は持ち合わせていなかったからではあるまいかと思う▼文字で記録されるようになる以降の大災害は過少に申告されているきらいがあり、明治29年、昭和8年の大海嘯も風化しきっていた。だからこそ、今回のような大津波が現実に襲来するなど予想の範疇をはるかに超えていたといっても過言ではあるまい。そこに油断が生まれる素地があったといえよう▼実際、被災現場を歩いてみるたび、今なお「信じられない」という思いが新たにわいてくるのは、自分の人生体験と対比して考える習性がもたらす想像力にはおのずと限界というものがあるからだろうか▼今進められているかさ上げ工事を見てもそうである。高さ14bもの土地が忽然と姿を現すなどどう考ても空想の世界でしかなかった。この上にさらにかさ上げしピラミッドを作るなど造作のないことで、そんな土量を運び、盛る手段と技術でまさに「天空の城」が出来上がりつつあるのも信じられない思いだ。

☆★☆★2014年11月22日付

 爺むさいことばかり書いていると若い人からは嫌われるだろうが、新聞の読者は中高年が圧倒的といわれるのでこの世代にすり寄って「同病相憐れむ」ことも時には必要だろう▼70歳以上が免許更新時に受けなければならない「高齢者講習」というものを先日体験して、自分では気付かないうちに五感も運動能力も衰えているのだなということをいやでも実感させられた。視力低下は自覚済みだが、視野も狭窄化し、動体視力も思った以上に落ちていた▼実地運転でコースを走ってみてその昔、免許を取りに盛岡まで出かけたことを思い出した。その時はコースを間違えて途中から降ろされてしまったが、今回も短いコースすらあやふやだった。気だけは若いつもりでいるが、加齢と老化の関係は着実に進んでいる▼昨日はなめこ汁を作るはずが同時にワカメまで入れていて、注意力というものがここまで散漫になっているのかと愕然としたが、おかげで「具沢山」の味噌汁を味わえたのはケガの功名?というものか。いずれこうして嫌われる老人となっていくのだろうが、だからこそ若い人に一言▼「なめこワカメ汁」を作らずに済む秘訣は若い時に脳を鍛えておくことだと思う。老生のように若い頃それを怠った結果がいま顕著に現れていることはまちがいあるまい。その鍛錬のためにはまず新聞を読む、本を読むことであろう。それは脳細胞を活性化し、加えて知識を増やしてかつ貯蔵することにつながる。と、気付くのは遅すぎたが、だからこそのお節介。

☆★☆★2014年11月21日付

 先日行われた日米野球第4戦の試合終了後、侍ジャパンの一塁側ベンチとは対照的に、メジャーの三塁側ベンチはゴミだらけだったとスポーツ紙が写真入りで伝えていた。侍側は試合にこそ負けはしたが勝負に勝った。モラルという勝負に。これが逆だったら私は日本人をやめている▼写真では細部まで分からないがしかし汚れの差は歴然としていた。メジャー側のベンチは恐らく米国人らの応援団が陣取っていたものと思われるが、「ペットボトルや紙コップがそこら中に捨て置かれ、地面には噛みたばこを吐き出した唾液なのか、コーヒーをまき散らしたのか、茶色い液体が…」とある▼さらに「彼らがひっきりなしに口にするヒマワリの種の殻が無数に散らばり、足を踏み入れるのをためらうほどの状態だった」と続き、最後は「米国の球場では見慣れた光景とはいえ、普段は軽く拭き掃除するだけで済む球場関係者は目を丸くし、文化の違い≠ノ呆然自失の体だった」と結んでいる▼幕末に日本を訪れた外国人は日本人のきれい好きとモラルの高さに驚いているが、その伝統は今もきちんと受け継がれている。それがこの国の国柄というもので、掃除は業者の仕事、後は知らんという感覚は「メジャー」な国特有のものだろう▼飲食ができる運動場では試合後ゴミは袋に入れて所定の場所に捨てるという「常識」を日本人は共有しているが、それは公の場も家庭と同じと考えればこそ。そういう公徳心も次第に薄れてきているがそれでもまだまだ健在だ。

☆★☆★2014年11月20日付

 「挽歌」とは、人の死を悼む詩歌のこと。元々中国で柩を担ぐ人が歌う歌の意から出た―と辞書にある。昨日の新聞、テレビは83歳で亡くなった俳優の高倉健さんを偲ぶ特集一色だった。これだけ挽歌に囲まれればまさにスター冥利に尽きるというものだろう▼黙っていてもこれだけ存在感のある俳優は珍しい。まさに外見通りの人物だったという。「男らしい男」と言うとジェンダーフリー(性差否定)論者からにらまれそうだが、やはり男らしい男は男から見ても文句なくいい。「らしさ」とは装うことではなく内面が自然とにじみ出すものであるはずだ▼デビューしたての頃、イケメンの大学生役を演じた映画を初めて見た印象がずっと尾を引いていたのだから、後に大スターとなる片鱗がすでにのぞいていたのだろう。実際何を演じても絵になり、おそらく石原裕次郎と2人が日本映画史に残る人気男優の双璧となることは疑いない▼健さんに対する挽歌の陰に隠れて衆院解散という大ニュースもすっかりかすんでしまった。消費税を5%から8%へ引き上げる際も安倍首相は悩み抜いたものの結局は大勢に押し切られた形だったから、10%の再増税は先送りと見ていたがその通りとなったのは、「床屋政談」通り▼解散総選挙の行く先はともかく、これは政界再編成をいやでも促すことになる。すでに「みんなの党」は解党することに決まったが、一時はあれほど注目された党の末路としては哀れを禁じ得ない。同党に対する挽歌が聞かれないのもまた哀れだ。

☆★☆★2014年11月19日付

 旅の楽しみの一つに訪れる先それぞれの料理があるが、期待はずれに終わることが少なくない。全国のごく一部しか知らないくせにそんな結論を下すのは早計だが、その少ない経験の平均値とすれば「おらほ」の食は上位にあるのではないかと思うのである▼今や全国の味を紹介する雑誌やムック(特集)の数は相当数に及ぶが、そのグラビアを眺めるといずれもヨダレが出そうなシズル感(訴求性)に溢れ、そこを訪ねたら是非味わいたいという気にさせてくれる。だが、現実に対面して見るとあれは財布と相談しなくてもいいレベルの味だと知らされることが多いはずだ▼世界三大漁場を近くに抱える当地は当然のこととして新鮮な魚が手に入り、刺身が大好物の当方はそんなありがたさを意識せずに箸を付けているのだが、一歩外へ出て内陸の県などを訪ねたものなら、刺身と言えば「鯉こく」ぐらいな場合があり、その時のガッカリ度は表現しにくいほど▼海の魚が出されてもマグロなど光沢を失っていて、食欲が起きないこともある。その点、われわれは贅沢な暮らしをしているのが現実で、これはいくら感謝しても感謝仕切れるものではない▼煮付け用にスルメイカを買ったついでにヤリイカも求めた。これを割くのは初めてだが、われながら格好良く刺身できた。いやこの味の素晴らしさ。これはまさに三陸の恵みである。かつて福岡で活魚のヤリイカを食べて、ソーメンのごとき蛋白さに産地の違いを実感したが、この違いを商売にしない手はあるまい。

☆★☆★2014年11月17日付

 目の前を素敵な車が走っている。何という外車なのだろうと近づいて見ると、国産車だった。そんな経験が多くなった。日本もようやくデザイン力の大切さを認識し始めたようである▼車であれ機械であれメイドインジャパンが機能的に優れていることは世界が認めるところである。しかし世界的ブランドでもデザインという点で今ひとつというところがある。多分に実用一点張りという傾向があったのは追いつけ追い抜けという過程でやむを得なかったのかもしれない▼中でも車がそうで、生産台数や販売台数で見れば日本はすでに世界のトップにあるといっても過言ではないが、高級車の販売台数では欧州車の後塵を拝してきた。車本来に求められる要件は十二分に満たしているものの、これを絶対欲しいというユーザーの欲求に応えられる車がどれほどあるかというと、平均点には達していまい▼特に日本車は横並び傾向があり、一つの先駆的なデザインが人気を呼ぶと同じような車が各メーカーから出されるというところがオリジナリティーを尊ぶ欧州車との違いであろう。一目見てメーカーと車種とがすぐ分かるような特徴、そんな車がそろそろ登場してもいい頃だろう▼中国の富裕層が欲しがるベンツ、アウディ、BMWなどではなく日本の「○○」となる日が来るのは案外早いのではないかと思えるのは、時折はっとするほどの「バックシャン(後姿美人)」を見かけるようになったからである。次は表から見ても唸るようなデザインの車を送り出してほしい。

☆★☆★2014年11月16日付

 産業ガス大手の岩谷産業が燃料電池車のエネルギー源となる水素の販売価格を発表した。究極のエコカー時代が早足で到来を思わせるが、それが既存のサービスステーション(SS)、つまりガソリンスタンドが成り立たなくならないよう、国は配慮すべきだろう▼エネルギー源の多くを化石燃料に頼ってきた我が国のエネルギー政策がいま大転換を求められているのは、原発事故の影響で原子力発電への依存率が減った分、火力発電へのシフトが進んでおり、その輸入量の増大と円安による為替損が貿易赤字を拡大させているからである▼それとは別に将来のエネルギー源確保のためには化石燃料を他の資源に置き換えていく必要がある。その一つが水素の燃料電池車で、1度の充填で700`を走れることと抜群のエコ度で、将来の主役となるだろう▼一方、走行距離において難のあった電気自動車だが、日立が発表した新型のリチウムイオン電池は1回の充電で460`走ることが可能となりそうで、これだと実用性がぐんと高まるから、あとは価格勝負となりそうだ。SSがガソリンスタンドというイメージと訣別する時代がそこまで迫っているわけである▼水素ステーションの設備費は膨大で、それが普及のネックだが、だからこそ携帯可能なボンベをSSに置くような技術の開発が必要だろう。いずれSSは「給油」「充電」「充填」という3役を果たすようになるはず。エネルギー政策はそうした細かいところまで配慮してはじめて政策と呼ばれるようになるのだ。

☆★☆★2014年11月15日付

 「こもりっきり」状態から一歩外へ出ると、新しいものが見えてくる。そして自分がいかに世間を知らなかったかを痛感する。これは旅の効用というものであろう。今回の九州旅行もはたから見れば単なる観光目的だろうが、矮小な生き方をしてきた身には新鮮な発見だらけだった。まさに研修目的と合致するのである▼百聞は一見にしかずとはよく言ったもので、以前から阿蘇を一度は見たいものだと思っていたが、聞くと見るとでは大違い。単なる火山などではなかったのだ。周囲126`もの外輪の内側がまさにカルデラで、これから元の高さを推測するとエベレスト以上の高さだったのではないか─などとこれまで誰も教えてくれなかった。それを知っただけでも収穫だった▼泊まった温泉の旅館は日本人より外国人の方が多く、他にも有名な観光スポットは異国の言語で埋め尽くされ、あたかも日本が占領されたような趣きがあった。円安は輸入大国に不利な側面しか伝えないが、こうして日本の理解を促す作用ももたらしていた。固定観念に囚われがちな我が蒙がひらける思いがする▼この旅で最も感銘を受けたのは嘉永年間に通潤橋という水路橋を作った庄屋さんとその一統の物語で、不毛の土地が100fの水田に変じたその努力と工夫には驚愕する他はなかった。これぞ教科書に絶対載せるべき逸話だが、誰も教えてくれなかった。野に遺賢ありなのである▼水路橋や城郭造りに見る巧みな物理と技術。ものづくりの原点がここにもあった。

☆★☆★2014年11月14日付

 出不精が年に1度例外にするのが、所属する某団体の研修旅行。東京以西には滅多に足を運ぶことがないが、その滅多に行けない場所に行けるとなれば話は別である。そりゃ、日本がどんな国なのか誰だって知りたい。今回は九州ということで「待ってました」とばかりに手を上げた▼実は毎年実施していたものがここ3年途絶していた。理由はむろんあの大震災のせいである。久し振りだからと言ってそんなにはしゃぐこともあるまいが、これは説明を要しよう。実は旅そのものが嫌なのではなく、一人で歩くのが苦手なだけなのである。だから複数で行く移動なら大歓迎。なんと言っても退屈せずに済む▼加えて朝から飲めるところがたまらない。バス旅行をもって至上とするのはそのためである。持参する肴にも注文をつけ、車内で真っ昼間から陶然となるこの至福。これに勝るものが果たしてこの世に存在するだろうか?▼今回は研修先が研修先である。花巻から空路で名古屋へ。それから福岡までという行程が5時間余り。日本は狭いと言うがそれは飛行機を利用すればこそのこと。列車でとことこと歩いていた時代は、九州と聞いただけで異国という気がしたものである▼シートベルトの着用サインが消えるやいなやすぐさま酔仙の「地酒」を取り出し、もどかしくも早速蓋を開ける。空の上でのことだからまさに天にも上る気持ちである。「こんなことを書いていい気なものだ」とお叱りをうけそうだが、旅先の不調法、なにとぞお目こぼしを。

☆★☆★2014年11月13日付

 消費税率を予定通り再引き上げすれば「アベノミクス」は不発する。だから景気動向を確かめるため1年半実施を先送りする。先送りすれば内外からやんやの責めを受ける。そこで信を問うために解散する。と、三段論法で行けば衆院の解散・総選挙は不可避ということになろう▼5%から8%への引き上げは3党合意に基づく既定路線だとしても、せっかく手ごたえを感じてきたアベノミクスの行方も不安として、安倍首相がその引き上げを前に各界代表から意見を聞いた時はもしかして先送りもありと素人判断したが、賛成多数だった上に財務省主導の包囲網の前には太刀打ちできなかったようである▼しかし引き上げ後、駆け込み需要で上げ潮に見えたGDPもその後反動が起き、この調子で予定通り引き上げすればようやくデフレ脱却の道筋をつけたアベノミクスが頓挫する引き金になりかねないという観測が強まっている▼再引き上げを予定通りとすべきかどうかをたずねる先日の有識者会議では賛成が多数を占めたが、今度も安倍首相が多数意見を尊重する可能性は低いというのが妥当な見方だろう。最新の文藝春秋で安倍ブレーンの浜田宏一、本田悦郎両氏が対談し「消費に冷や水を掛ければ、デフレに逆戻りする」と指摘していたが、首相が恐れるのはそこだろう▼玄人は経済を各種指標や財政構造などを多角的に眺め、かつ国際的な観点から系統立てて「筋論」を展開するが、素人はフトコロ勘定から現実を眺める。だから先送り賛成→総選挙となるはず。


| 次のページへ >>